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『ボージャック・ホースマン』シーズン6後半感想/いろいろあったけど、結構楽しかったよね?

投稿日:2020年2月5日 更新日:

※『ボージャック・ホースマン』シーズン6について、一部ネタバレがあります。

大学生の頃、私は映画製作サークルで映画を撮っていた。

当時住んでいた古いアパートのボロボロの共同洗濯機を、8㎜カメラで意味ありげに写して悦に入るような、しょうもない学生だった。

卒業前に撮った映画はやはりしょうもない映画だった。しかしその撮影中に起こったことは、良くも悪くも忘れがたい思い出となった。

なぜこんな話を始めたかというと、『ボージャック・ホースマン』シーズン6最終話での、トッドの言葉に思うところがあったからだ。


 

プリンセス・キャロリンの結婚パーティー会場で居心地悪そうにしていたボージャックを、トッドが外に誘い出す。

これからのことを不安に思って弱音を吐くボージャックに、トッドはホーキーポーキーの歌詞について語る。(このくだりも秀逸だった)

そしてトッドは会話をこう締める。

"It was nice while it lasted."

このトッドのセリフは、最終話のタイトル(Nice while it lasted)にもなっている。

直訳すると、”それが続いている内は良かった”だが、これは英語圏ではよく使われる慣用句らしい。

”思い返してみれば、あのときは本当に楽しかった。”とでも訳せばいいのかな。

これは、「その楽しかった時間はもう過ぎ去った」ということを受け入れているのが前提の言葉なのだそうだ。

トッドがボージャックと過ごしてきた中で、辛いことも悲しいこともムカつくこともたくさんあったけれど、「思い返してみれば楽しかったよな。(かと言って戻りたいかと言えば、もういいや)」という感じ。

この言葉を聞いて思ったのは、トッドはなんて華麗に過去を受け流すんだろう、ということ。

その時間が過ぎ去ったことを自然に受け入れているトッドと違い、私は過去に囚われがちな人間だ。


 

学生時代最後の映画を製作していたとき、当時付き合っていた恋人と別れた。私の映画に出演してくれた後輩に、私が恋をしてしまったからだ。

結論から言うと、私は映画製作中にその後輩と付き合うことになり、別れた恋人は夜明けの路上で私を蹴った。

サークルの飲み会の帰り、大学最寄駅の駅前で始発を待つ私と後輩の前に突然現れた元彼。

彼は大声を出すわけでもなく、胸ぐらを掴むわけでも、殴りかかってくるわけでもなかった。ただ執拗に、私のかかとの辺りを、ガッ、ガッ、と小さく蹴り続けるのだ。

彼が脚力増強シューズを履いていなかったことは幸いだったと思う。

後輩が元彼を羽交い絞めにし、サークルのメンバーたちは遠巻きに私たちの様子を面白そうに眺め、元彼は泣き出し、私もつられて泣き出した。

その後どうやって事態が収拾したのかは覚えていない。

私は大学を卒業してすぐに後輩と別れ、元彼は入社から一か月後、連日の深酒とそれに伴う諸々の事情で会社を辞めた。


 

文字に起こしてしまえば、私の作った映画と同じようにしょうもない話だ。

それでも私は長いこと、この一連の流れを思い出しては悶え、嘆き続けていた。

だから、夫と付き合いたての頃、彼が過去の辛い思い出を軽やかに語るのを聞いては驚いたものだった。

夫がアマチュアバンドを解散するにいたった経緯をしんみりと話した後、

「あのときはキツかったよ…。よし。じゃあラーメン食べに行く?」

と、朗らかに言い放ったときには、驚きを通り越して怒りすら覚えた。

「よし」じゃないだろ。

切り替えが早すぎるだろ。

それでも、

「終わったことなんだからもういいじゃん。ラーメン行く?」

私が過去の思い出にすがりつこうとする度に夫がそんな呪文を唱え続けたおかげで、ついに私も、自分語りをするやいなやラーメンが食べたくなる、という体質になってしまった。


 

ボージャック・ホースマンは、あまりに長く過去に囚われてしまった人(馬)なんだろう。辛い思い出にも、楽しい思い出にも。

過去に留まるのって辛いけど、前に進むより楽だったりするから。

私みたいに中途半端な後ろ向き人間は、超絶ポジティブ夫のせいで過去に留まることを断念せざるを得なかったわけだけど、金も時間も名声もあって、後ろ向きでいるには最高の環境を手にしたボージャックは、過去に留まり続けてしまった。

思えばこの物語は、ボージャックが手間と時間をかけて、すべてを失っていく物語だった。

キャリアを失い、信頼を失い、愛を失い、家族を失い、家を失い、友人を失った。

そして、そんなボージャックがついに過去と決別するタイミングを手に入れたのは、すべてを失ったと悟ったときだった。

プリンセス・キャロリンの結婚パーティーを抜け出したボージャックは、屋根の上でタバコを吸っているダイアンを見つける。

ボージャックはダイアンの隣に座り、二人は話し始める。

ダイアンの話を聞いて、「かつて一緒に、あらゆるトラブルに巻き込まれてくれたあのダイアンはもういない」と寂しがるボージャック。

そんなボージャックにダイアンは言う。

「ミスター・ピーナツバターやボージャックには感謝している。今の自分を作ってくれた人たちには違いないから。たとえ一緒にいたのが、"人生のひと時だけ"だったとしても。」

ここでボージャックは、やっと気づいたんだと思う。

もう、あの狂騒的な日々のすべては終わってしまった。


手に入れたすべては失われてしまった。

そして、自分はやっと前に進むんだ、と。


 

私が最後に例の元彼を見てから10年以上経つけれど、魔が差した私は、先日ついにSNSで彼を見つけてしまった。

彼はどこかのご当地キャラの顔出しパネルから笑顔を覗かせた写真をプロフィールに設定していた。

私が覚えている彼は、そういう類の写真を嬉々として撮るような人ではなかった。

でもきっと彼は、顔出しパネルというハードルを軽々と越えさせてくれるような人と出会ったんだろう。

It was nice while it lasted.

色々大変だったけど、終わってみれば、結構楽しかったよね。

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