この記事は『ロシアン・ドール: 謎のタイムループ』(Netflix)のネタバレを含みますので、まだ観ていない方は、ネタバレなしの感想をおすすめします↓
近年観たドラマの中でも、一二を争うほど心を揺さぶられたNetflixのオリジナルドラマ『ロシアン・ドール: 謎のタイムループ』。36歳の誕生日と死を繰り返すタイムループに陥ったナディア(ナターシャ・リオン)が、元の日常を取り戻すために奮闘する物語。
まさかの死因で死んでしまったり、真相究明のため行動を起こそうと外に出た瞬間に死んだりと、死とタイムループを繰り返す1、2話はブラックコメディーそのもの。
しかし、ストーリーが進んでいく内に、もしかしてこれはコメディーではないのでは?と気づかされるのです。実はもっと奥深い物語なのでは?と。
その奥深さや面白さをもっと堪能するために、海外サイトで"Easter Egg"(隠されたネタ)や、ファンの方たちの考察などを調べてみたら、もう脱帽。観察眼が探偵並。今日は、新たな発見になるかもしれないネタやヒントを私なりの解釈を交えて紹介していきます。
『ロシアン・ドール: 謎のタイムループ』で見逃しているかもしれないこと
繰り返し登場する男性3人組
エピソード1で、ナディアがマイクと寄ったデリで騒いでいた酔っ払い3人組。実は彼らはその後も違う役で登場しています。
次に彼らが登場するのはナディアが出席したコード・ミーティングの場。ナディアの書いたコードにバグが見つかったと告げる男性や(実際はナディアのミスではなかった)、仕事ぶりを褒められる同僚の男性たちが彼らです。
そして、ナディアがルースの家から乗った救急車の救急隊員も彼ら。どの役割でも、この3人組はナディアに対して悪意を見せます。セクハラ発言をしたり、からかったり、仕事のミスを押し付けたり。
彼らはどんなタイムライン上でも、ナディアを貶める者として登場する役割なのかもしれません。
ナディアとアランはすれ違っていた
エピソード1でアランがデリにいたことはエピソードが進むと判明することですが、実はエレベーターでの遭遇が起こる前にアランは登場していました。
エピソード3で、元恋人のジョンと喧嘩をして家を出て、トンプキンス・スクエア・パークを歩くナディアとすれ違っています。
その後ホームレスのホースと一緒に凍死した次のタイムラインで、ジョンと電話中のナディアの横をアランが通り過ぎます。すれ違い様にナディアがアランの方を振り返っていたその仕草からも、アランに何か感じるものがあったかもしれません。
ナディアが勤めていたのはあのゲーム会社?
パーティーで知り合ったマイクから、仕事は何?と聞かれて、「今はフリーランスのゲームデザイナーで、その前は”ロックンロールゲームス”で働いていた」とナディアは答えます。
このゲーム会社の名前は、『レッド・デッド・リデンプション』や『グランド・セフト・オート』シリーズで有名なゲーム製作会社”ロックスターゲームス”からとったそう。大のゲーム好きのレスリー・ヘッドランド監督がつけた名前なんだって。
グランド・セフト・オートV 【CEROレーティング「Z」】 - PS4
レッド・デッド・リデンプション2【CEROレーティング「Z」】 - PS4
ギリシャ神話のアリアドネ
アランの部屋に、ナディアが作ったゲームソフトがありました。何度プレイしても同じところで死んでしまうため、アランは「不良品だ」とゲームを罵ります。
このソフトのタイトル、"Ariadne"(アリアドネ)という文字が読めます。Ariadne(アリアドネ)はギリシャ神話の登場人物。迷宮ラビュリントスでミノタウルスを退治するためにやってきたテセウスに糸玉を渡し、彼を助けました。この話から「アリアドネの糸」は「問題解決の鍵」という意味として使われるようになりました。
ラストエピソードのタイトルも"Ariadne"です。アランにとってはナディアが、ナディアにとってはアランが「アリアドネの糸」だということを表しています。
ミステリアスなホームレスの”ホース”
トンプキンス・スクエア・パークの近くをうろつくホームレスのホースは、物語の中で、どこか現実離れした不思議な存在。劇中、ナディアは何かと彼を気にかけています。
polygonのインタビューで、監督のレスリー・ヘッドランドは、ホースは「潜在意識のような存在」と言っています。ホースは味方でも敵でもなく、もう一人のナディアなんだ、とも。
参照
polygon
ホースとナディアのエピソードで印象深いのは、ホースがナディアの髪を切るエピソード。
ナディアの髪は母親譲りで、過去の回想シーンでは、ナディアが束ねていた髪を「下ろしていた方がかわいい」と母親が言うシーンがあります。
ナディアの髪を切りながら、ホースは「この髪は、過去のあんただ」と言うのです。髪を切ることで、母親の呪縛を解くかのように。
さらに別のタイムラインで、ナディアは、母親の形見の金貨のネックレスを「自分には重過ぎる」と、ホースにあげてしまいます。
ホースは、ナディアの重荷になっていたものを少しづつ引き受けてくれるかのようです。ナディアが痛みの伴う一歩を踏み出すとき、ホースを呼び出して手助けしてもらっているのかもしれません。
『ロシアン・ドール: 謎のタイムループ』のエンディングについて
アランは自分の問題と向き合うことを決意し、ナディアは過去のトラウマを克服しました。そして、タイムループの原因と考えられる、あの夜の出会いをやり直すために、二人はデリへ向かいます。
そこで、これまで同じタイムラインにいたはずの二人は、それぞれが別のタイムラインにいることに気がつきます。
ナディアのタイムラインでは、ナディアは泥酔するアランに声をかけますが、アランは彼女のことを覚えていません。
そして、アランのタイムラインでは、アランがナディアに声をかけますが、ナディアはアランを冷たくあしらいます。
お互い別々のタイムラインで、相手を助けようと必死に行動します。ナディアはアランの自殺を止めようと、アランはナディアが事故に合うのを防ごうと。
二人は最初の夜にできなかったことをやり遂げようと、懸命に粘ります。
そして、ナディアはアランのマンションで自殺を食い止めるために一緒に過ごすことができ、アランもナディアが事故に遭うのを間一髪で助けることができました。
画面には、二つのタイムラインが映し出されます。それぞれのナディアとアランは、トンネルに向かって歩いていきます。
トンネルの中では、ホースが率いるパレードが行われています。徐々に二つのタイムラインが近づき、パレードに溶け込むように、一つのタイムラインに統合されていくのです。
フィナーレの解釈
いつのまにか、狂熱的とも言えるホースのパレードと一緒に行進しているナディアとアランが映り、物語は終わります。
タイムループは終わったのでしょうか?ファンの間では色々な憶測が飛び交っているようです。中には、これはタイムループではなく、実は彼らは死んで"煉獄"のようなものを経験していたのでないか、というものがありました。
煉獄は、天国には行けなかったが地獄にも墜ちなかった人の行く中間的なところであり、苦罰によって罪を清められた後、天国に入るとされる。
Wikipedia
つまり、この解釈だと、ナディアとアランは死んでいて、自分たちの罪や後悔の念などを浄化するためにあの夜を繰り返していたのだと。そう考えると、ホースのパレードは天国まで二人を導いている、ともとれます。
でも私の解釈は違います。タイムループが終わって彼らは元のタイムラインに戻ったんだと思うのです。
パレードで行進するナディアの表情が、この後も彼らの人生は続くんだ、ということを何よりも雄弁に語っているように見えるのです。
なぜなら、雄叫びを上げて明るい表情で行進するアランに対して、ナディアは今にも泣き出しそうな表情をしているから。
全ての決着が着いて死を受け入れたのだとしたら、ナディアも笑っているはず。
パレードにいるナディアは、これまで隠してきた自分の弱さがむき出しになっているんじゃないかと思うんです。
これまで人と真剣に向き合うことができなかったのは、ナディアのトラウマや弱さのせい。ナディアはタイムループが起こり、自分が隠してきた弱さと対峙して克服しました。
そして、ナディアは、受け入れた自分の弱さやもろさを抱えながら、新しい世界に向かって進んでいく。だから、ナディアが不安や恐怖を覚えるのも不思議じゃないと思うのです。
それでも、前に進もう、生きよう、という強い思いが彼女を支えているから、あの表情になったのだと私は思っています。
観る人によって全然違う取り方ができるエンディングなので、みなさんも自分なりの解釈をしてみてください。
ちなみに、出勤中にパレードの曲を聴きながら歩いていると、やってやるぜ!って気持ちになるのでおススメですよ。
『ロシアン・ドール』シーズン2決定!
シーズン2の製作が決定しました!製作陣はシーズン3まで計画しているようですよ。わーい、わーい!!
参照
cosmopolitan