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麻耶雄嵩『あぶない叔父さん』感想/ひっくり返る世界観が癖になる極上ブラックミステリー。

投稿日:2018年7月19日 更新日:

溶ける…というか焼け焦げる暑さ…
みなさまお元気ですか?

私はあまりに暑くて、自転車通勤を諦め、しばらくの間電車通勤に切り替えました。電車だと本が読めていい!スキマ時間、最高!

というわけで、麻耶雄嵩著『あぶない叔父さん』読了です。

タイトル通り、この叔父さん、とんでもない。
そして語り手を務める甥、斯峨優斗(しがゆうと)も、負けじとあぶない甥っ子でした。

『あぶない叔父さん』あらすじ
寺の離れで「なんでも屋」を営む俺の叔父さん。家族には疎まれているが、高校生の俺は、そんな叔父さんが大好きだった。鬱々とした霧に覆われた町で、次々と発生する奇妙な殺人。事件の謎を持ちかけると、優しい叔父さんは、鮮やかな推理で真相を解き明かしてくれる――。精緻な論理と伏線の裏に秘された、あまりにも予想外な「犯人」に驚愕する。ミステリ史上に妖しく光り輝く圧倒的傑作。(amazon商品説明より)

『あぶない叔父さん』のネタバレなし感想

6編の短編からなる『あぶない叔父さん』。語り手は、霧に覆われた町、霧ヶ町に暮らす高校生の斯峨優斗(しがゆうと)。そして、優斗の父の弟が、タイトルに出てくる「あぶない叔父さん」であり、斯峨家の離れに住んでいます。

霧ヶ町で殺人事件が起こり、優斗の親友や彼女が持ってくるゴシップネタから推理合戦が始まり、なぜか事件に近いところに「偶然」いる叔父さんが真相を解き明かすという展開になっています。

ちなみに、ただの高校生の彼らがどうやって殺人事件の推理をするの?って思いますよね。優斗の親友、陽介の家はスナックを経営していています。そう、彼らの最大のソース元は「スナックの客」。陽介がスナックにくる客から、町のゴシップネタや事件の情報を仕入れてくるんですね。

他の麻耶雄嵩作品を読んでいる方は慣れっこだと思いますが、一筋縄ではいかないストーリーです。麻耶作品に出てくる探偵は、「推理しない」「絶対に間違えない」「助手がすごい」「そもそも神様である」、という具合に、いわゆるまともな人物はいません。

途中まではミステリーの定石通りにストーリーが展開されますが、最後の最後に世界観がひっくり返されます。人によっては「…は?」とか「…あ?」ってなる方もいると思いますが、慣れちゃうとまさにそこが快感に…!

収録話のあらすじ

では、叔父さんの危なさがいかんなく発揮された6話を紹介します。

「亡くした御守」

町の有力者の令嬢が恋人と心中するという事件が起こる。捜査が始まるとすぐに、心中ではなく殺人だということがわかり、優斗の親友である陽介、彼女の真紀とともに真相の推理を始める。優斗が失くした御守がある場所で見つかり、思いも寄らず、そこから真相が明らかになる。

叔父さん、結構ロマンチストなんですね。

「転校生と放火魔」

優斗の高校に、明美という女子高生が転校してくる。実はこの明美は霧ヶ町出身で優斗の元カノ(といっても付き合っていたのは小学生のとき…)。町では連続放火事件が起こっており、ついに犠牲者がでてしまう。次に狙われるのはうちかもしれない、と明美が優斗に打ち明ける。

叔父さん、放火魔にも優しいんだね。

「最後の海」

大病院を経営する枇杷家の次男の司は、病院を継がせたい父親と進路のことで揉めていた。優斗が司の家を訪ねた翌日、司の父親が海の見える神社の鳥居で首をくくっているのが発見される。

叔父さんの推理が冴えまくるこの話だけは、他の話と展開が違います。推理小説では探偵役が活躍するのが当たり前で、まさにこれがそういう話なのだけど、なぜか叔父さんの「逆活躍」を最後まで期待しちゃう自分がいる。

「旧友」

叔父さんの旧友、柳ヶ瀬伸司とその妻が自宅で殺された。柳ヶ瀬と因縁のある汐津雅之が自宅で首を吊っていたのが発見され、雅之の犯行ということで事件はあっけなく解決。しかし後日、優斗は叔父さんから意外な事実を聞くことになる。

叔父さん、凹む。

「あかずの扉」

優斗と陽介が臨時のバイトで訪れた地元の旅館の温泉で、男性の死体が発見される。死体を発見したのは優斗だが、死体は不可解な状況で出現したのだった。同じく旅館でバイトをしていた叔父さんが、その死体出現の真相を解き明かす。

叔父さん、またこのパターン…

「藁をも掴む」

優斗と明美の目の前で、女子高生二人が屋上から転落死する。亡くなった二人は、一人の男をめぐって敵対していたはずなのに、なぜか抱き合った状態で転落した。優斗は、明美を取るか真紀を取るかの選択を迫られる。

優斗のターン…と見せかけてやっぱり叔父さんドーン!

優斗の叔父さんへのヤンデレ感

35歳になっても定職につかない叔父さんを、優斗の家族は冷ややかな目で見ています。伸ばしっぱなしの長髪で、ボロボロの着物を着て、頭をボリボリ掻いている姿は、完全にあの探偵。優斗は優しくて謙虚な叔父さんが大好きなわけなのですが、いささか親愛の情が強すぎるというか…。

お茶をこぼした叔父さんに対してはこう。

こういうところが可愛いんだよな。叔父さんの様子を見て、俺は少し落ち着けた。(「最後の海」より)

落ち込む叔父さんに対してはこう。

俺は宥めるように、足の裏で叔父さんの膝をさすってあげた。

叔父さんの失敗や不運についても、優斗はいつも同情的。(「仕方なかったんだよ」「叔父さんのせいじゃないよ」、叔父さんは優しいから、人の不幸が耐えられないのだ(「転校生と放火魔」より)等々)

叔父さんの行動、思考を全肯定する優斗。じゃあ優斗は友達や彼女に対してもこんなに思い入れがあるかというと…全然ない。優斗が心を動かされるのは叔父さんに関することだけであって、その他についてはけっこうドライです。感情の見える描写が極端に少ない。

叔父さんに対しては、まるで小動物を愛でるかのように接するくせに、その他大勢については、思春期真っ盛りな塩対応。非常にヤンデレ臭がするんですな。

そう、あぶないのは叔父さんだけじゃない。

麻耶雄嵩さんの著作おすすめ

麻耶雄嵩さんという作家は、いつもミステリーの定石をぶち壊そうと画策している方です。だから彼の著作は一癖も二癖もあり、意見が割れる作品も多いんです。ミステリー好きだけど、本格はちょっと難しくて…という私のようなタイプの方におすすめするのはこちら。

『貴族探偵』

ドラマ化もされましたね。メイドや執事が推理をし、探偵と名乗る貴族は何もしない。女性を口説くだけ。その設定でここまで読ませるのはさすが。

続編も出ています。

『神様ゲーム』

転校生の鈴木太郎は自称「神様」。町で起きる殺人事件を予告し、実際に事件は起こってしまいます。はい、出た、神様出てきちゃった。衝撃の結末に備えてくださいね。とにかく、神様は絶対なんです。

これも続編が出ています。

私とは逆に、本格派が大好物!な人は、「メルカトル鮎」シリーズとかたまらないんでしょうね。

『あぶない叔父さん』は麻耶作品の中でもかなり読みやすいので、未読の方はぜひ読んでみてください。

くれぐれも、「一般的なミステリーの決まりごとは通じない」ということをお忘れなく!

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