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HBOでドラマ化。心がえぐられるミステリー小説、ギリアン・フリン『KIZU―傷―』

投稿日:2018年6月11日 更新日:

2018年7月にHBOでドラマ化されたギリアン・フリンの「KIZU―傷―」(…邦題…!!)。これはかなり心をえぐられました。主人公は新聞記者で、殺人事件の記事を書くために故郷の町に滞在することになるのですが、徐々に語られる主人公の過去の傷がヒリヒリと痛くって。そして、町の人たちのゴシップや疑惑が、じわじわと真相につながっていく様子が怖いんです。

HBOがインスタに上げていたドラマのイメージ映像も、ゾクリとさせられます。

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『KIZU―傷―』 (2007)
著者:ギリアン・フリン
<あらすじ>
新聞記者のカミルは、少女の遺体が発見された事件を記事にするために故郷ミズーリ州の小さな田舎町ウィンドギャップを訪れる。カミルが町を出たのは、母との確執から。カミルには年の離れた義理の妹アマがおり、小さな女王のようにカミルの家に君臨している。カミルが町に着いて早々に同じ手口で別の少女が殺され、事件を調べる内に、カミルは自分の過去の傷と向かい合うことに。

田舎町ウインド・ギャップで起こる少女殺人事件

カミルはシカゴ郊外にある新聞社「デイリー・ポスト」で記者をしています。ある日、編集長のカリーがカミルを自分のオフィスに呼びつけ、カミルの故郷ウインド・ギャップで起こっている少女失踪事件を調べて記事にしろ、と言うのです。実はウインド・ギャップでは、昨年の夏に少女が絞殺されるという事件が起こっていました。カリーは、これは連続殺人事件になるのではないかと予見していました。

そして、カリーは「これは君にとって、チャンスかもしれない。過去を水に流し、自分の足で立つんだ。」と言います。過去に故郷の町で、カミルに何かが起こったのだということがほのめかされますが、それは、物語が進む内に少しづつ語られていきます。

家族との確執

カリーの期待を裏切るわけにはいかない、と、カミルはなんとか自分を奮い立たせ、ウインド・ギャップの母親と義理の父と妹の住む家を訪れます。カミルの母は先代から大きな豚の工場式農場を継いでおり、町で一番の豪邸に住んでいます。

その豪邸っぷりがすごいんです。険しい丘のてっぺんに建てられたヴィクトリア様式の大邸宅で、建物を一周するほどのベランダ、無数にある誰も使わない部屋、メディアが取材にくるほど立派な象牙でできた床のある寝室があります。カミルの母アドラや義理の父アランたちは、そんな豪邸で優雅に生活をしていました。

久々にカミルと顔を合わせた母アドラは、カミルを歓迎しているとは言い難い態度を見せます。アドラは町一番の大富豪の家に生まれ、これまで仕事をしたこともなく、優雅に暮らしてきたお嬢様。そんなアドラと、カミルはなぜか気が合わず、反発ばかりして育ったのです。父親はというと、カミラは顔も名前も知りません。アドラが若い頃の一度だけの過ちで生まれたのがカミルでした。

アドラと夫のアランの間には、13歳のアマという娘がいます。実はアマが生まれる前、カミルにはマリアンという妹がいたのですが、生まれつき病弱で、10歳で亡くなってしまったのです。母の愛情がマリアンだけに注がれていると気付きながらも、カミルはマリアンをとても可愛がっていました。そして今は母の愛はアマに注がれているのです。

母親に反発しながらも、カミルはいつも母の愛を欲しがっていたんでしょう。アマに対するアドラの態度を見るたびにカミルは傷ついていますから。アドラの振る舞いは読んでいて腹が立ってしょうがない!まさに毒親。

奔放な性格の義理の妹アマ

さて、母アドラに溺愛されている13歳の義理の妹アマは、美人ですが気難しく、よく癇癪を起こします。家ではアドラが好む服を着て、アドラが好む行動をとるのですが、外では男の子と遊びまくり、パーティーで薬をやったりと、実はかなり奔放な子です。

この子がまたものすごい「かまってちゃん」で。カミルも最初は辟易して距離を置こうとするのですが、やはりそこはかまってちゃん、カミルに何かとちょっかいを出し始めます。カミルをパーティーに連れ出したり、同じベッドで寝たいと言い出したり。人との距離感にかなり難ありな少女です。あの母親に育てられたらこんな風になっちゃうよね、って同情する部分もあるんですけどね。

取材を続けながら、真相に近づいていくカミル

カミルは町で取材を始めます。殺された少女の遺族に話を聞いたり、編集長のアドバイスを受け、事件後の住人の様子を調べてみたり。衝撃的な記事になりそうなネタはなかなか手に入りません。そこで、カミルは警察に接触するのですが、地元警察は記事にされるのを嫌がり、相手にしてくれません。

しかし、事件解決のためにテキサスから派遣されてきたイケメン刑事リチャードと知り合ったカミル。このリチャードがカミルに興味を持ち、警察が掴んでいる情報をわずかではあるけど教えてくれることに。最初は記事を書くために取材をしていたのですが、徐々に真相を掴むために奔走し始めるカミル。そんな中、町の人々は、被害者の家族を疑い始めるのですが―

小説のタイトルが表すのは

この小説の原題は『Sharp Objects』(尖ったもの)で、邦題は「傷」です。この二つのタイトルから連想される人も多いと思いますが、カミルには13歳のころから自傷癖があって、身体中傷だらけです。彼女の場合、ただ傷つけるのではなく、鋭い刃物を使って身体中に言葉を彫るのです。カミソリで自分の皮膚に文字を彫るなんて、想像しただけでヒィ!ってなりますが…。例えば、カミルの脚の側面には「babydoll(赤ちゃん人形)」、手首には「harmful(有害な)」などという単語が彫ってあるのです。カミルの身体の服で隠せる肌には、背中の中央を除いて隈なく言葉が刻まれています。刻まれた言葉はカミルの感情によってしばしば熱を帯びたり、疼いたりします。

"omen(前兆)"という語がまた、わたしの皮膚で太鼓のように鳴り響いた。
油で光るアランの唇から出た言葉を聞いて、体の十カ所に火がついた。"suck(喫う)" "bitch(性悪女)" "rubber(ゴム)"。すべてが燃えている。

この刻みこまれた言葉たちの描写は、ときにカミル本人よりも雄弁に感情を表現しているように感じます。

終わりに

カミルの傷、母との確執、殺された少女たち、ゴシップに支配される閉鎖的な町。これでもかというくらい気が滅入るような要素がてんこ盛りですが、カミルが苦しみながらも真相に向かっていく様から目が離せません。

この小説は、家族の確執に悩んでいる人、お子さんがいる方には特に読んでほしいです。決して単純なハッピーエンドではないんです。私にも娘がいますが、この小説を読んで思うところがたくさんありました。

さて、以前紹介した『冥闇』もそうだったんですが、ギリアン・フリン作品は、読み終わった後の脱力感が癖になります!ぜひ味わってみてください。

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