ミステリー/サスペンス小説 海外ミステリー/サスペンス

ノスタルジーに彩られた「スタンド・バイ・ミー」的ミステリー『ありふれた祈り』

投稿日:2018年4月27日 更新日:

最近読了した小説が、読み応えたっぷりで面白かったので、今日はそれを紹介しますね。ネタバレなしです。

『ありふれた祈り』
(ハヤカワ・ポケット・ミステリ)
-ウィリアム ケント クルーガー (著)

<あらすじ> 夏、牧師を父に持つ主人公たちの住むミネソタの田舎町で、一人の子供が死んだ。身近な者の死に初めて接した主人公とその弟。死の存在に一番近い夏を過ごした少年と家族の物語。

良質なヒューマンドラマが描かれているミステリー小説『ありふれた祈り』

全米4大ミステリ賞である、アメリカ探偵作家クラブ賞(エドガー賞)、バリー賞、マカヴィティ賞、アンソニー賞を受賞した作品で。ミステリー小説と銘打たれた本書ですが、ミステリー色は薄めで、「推理!」「トリック!」みたいなものを期待していると肩透かしをくらうのですが、「だから読まない」というにはあまりにももったいない良質な物語です。

舞台は1960年代のアメリカ。ミネソタ州にある、教会を中心にできた田舎の町です。主人公のフランクは好奇心旺盛で、いろんなことに首を突っ込んでしまう13歳の男の子。お父さんは冷静沈着な牧師、お母さんは美しく、お父さんの教会で聖歌隊の教育をしています。

さらに、お母さん譲りの美しさ、音楽の才能を持つお姉さんがいます。いつも主人公と一緒に行動する弟のジェイクは、優しく繊細な性格で、吃り癖があります。

平凡ながらも、穏やかに暮らしてきた家族。しかし、ある夏の日、主人公の知り合いの少年が亡くなります。しかしこの夏の死はそれだけで終わらず、フランクやジェイクの人生を大きく変えてしまう死が待っていたのです。

スタンドバイミーにも似た、ノスタルジックな描写が魅力

冒頭で最初の死人がでるのですが、展開はスローなんです。なかなか真相への道筋が見えてこない。普段なら、さらっと読みとばしてしまいそうなノスタルジックな日々の描写が続くのですが、なんだかこの物語はそれができませんでした。

それは、常に意識させられる少年の死だったり、主人公が気づいてしまう町の住人たちの秘密や暗い過去だったり。悩みながら、大人と子供の境界線を行ったり来たりするフランクに、思わず昔の自分を重ねてもだえちゃって。多くの人がレビューに書いていましたが、この物語は「スタンド・バイ・ミー」を彷彿とさせます。夏の熱い風を受けながら、川に架かった鉄道の線路の上を歩く兄弟。庭仕事でもらったお駄賃で買うドラッグストアのルートビア。軽薄に見える警察官や、すぐに喧嘩をふっかけてくる町の不良。静かな描写ながらも、その町の日々にぐいぐい引き込まれていきます。

穏やかな空気が一転、物語が動きだす

あるとき、ついに物語は大きく動き出します。

その日は暑く、無風で、空は硬い青磁の色をしていて、わたしは構脚橋にひとり横たわり、誰もいない川の上で胸が張り裂けんばかりに泣いた。

それまでの穏やかな日々が一転、分厚い闇に囚われているような、息が詰まりそうな日々が始まります。

ここからは読んでて本当に苦しかったです。

フランクがあるものを見つけた事から、とうとう真相が明らかになるのですが…

ありふれた祈りの意味するところは?

タイトルの「ありふれた祈り」が物語の中で大きな役割を果たすのですが、これはほんと、感涙ものです。牧師一家であるフランクには、お祈りはとても身近なもの。牧師であるお父さんは、いつもその時その場に合った、助言や忠告に満ち溢れたお祈りをします。

私は中学・高校と、カトリック系の学校に通っていました。私は信者ではなかったのですが、学校には毎朝お祈りの時間があり、聖書を学ぶ時間がありました。聖書やお祈りの言葉は信じる人たちにとっては救いの言葉ですが、私のように信仰のない人間には厳しく聞こえましたね。「悲劇は神に与えられた試練」」なんて。

この物語の中にも、信じる者と、信じない者がいました。

「そこなのよ。わたしたちを気にかけてくれる神などいないわ。わたしたちにあるのは、わたしたち自身とお互いだけなの。」

ありふれた祈りは誰のためで、何を癒すのか。ミステリーという枠にとらわれない、切なくて悲しい、それでいて心が浄化されるような、至極のヒューマンドラマである本書。ぜひ読んでみてくださいね。

記事キーワード

-ミステリー/サスペンス小説, 海外ミステリー/サスペンス

Copyright© ミステリープール , 2019 All Rights Reserved.