ミステリー/サスペンス小説 国内ミステリー/サスペンス

エログロなしでも、異常に面白いミステリーに仕上がった白井智之さん新作『名探偵のはらわた』が最高。

投稿日:

グロテスクな特殊設定に定評のある白井さんですが、新作『名探偵のはらわた』の特殊設定はこれまでとは一味違いました。


「死んだ殺人鬼が生き返り、人間に憑依して殺人を犯す」なんて、白井さんにしては至極まっとうで上品じゃないですか?

だって、これまでは「食用人間」が生産されていたり、「人間同士が(文字通り)結合」しちゃったり、「体中に人面瘡」が出ちゃったりとかしてましたから。




さらに、白井さんと言えば容赦ないエログロ描写が有名ですが、本作品では全く描かれていません。

タイトルに"はらわた"ってあるじゃん。やっぱりグロなんじゃないの?」と思われた方も心配ご無用。このタイトルにはある理由が…

さて、そんなワケで、『名探偵のはらわた』はこれまで白井作品を敬遠してきた人たちも安心して読める作品に仕上がっています。

かといって決して面白さが半減しているわけでなく、それどころか、これまで以上に良質なミステリーエンターテイメントになっているんです。

※ネタバレなしで書いていきます。

『名探偵のはらわた』あらすじ

人鬼として現代に蘇った悪名高い7人の殺人鬼たち。彼らは人から人に乗り移り、生前行った残虐な殺人行為を繰り返していきます。

彼らの悪行を止めるべく立ち上がったのは、伝説の名探偵・古城とその助手の亘。

彼らは7人すべての人鬼を見つけ出し、地獄に送り返すことができるのでしょうか。


人鬼は実際にあった殺人事件の犯人

この7人の人鬼たち、昭和時代に残虐な殺人事件を起こした犯人たちなのです。しかもその事件は、実際に起こった殺人事件をモチーフにしています。

  • 八重定事件(実際の事件名:阿部定事件)
  • 玉ノ池バラバラ殺人事件(実際の事件名:玉ノ井バラバラ殺人事件)
  • 椿産院殺人事件(実際の事件名:寿産院殺人事件)
  • 青銀堂事件(実際の事件名:帝銀事件)
  • 農薬コーラ事件(実際の事件名:青酸コーラ無差別殺人事件)
  • 四葉銀行人質事件(実際の事件名:三菱銀行人質事件)
  • 津ヶ山事件(実際の事件名:津山事件)

中でも、金田一耕助シリーズ「八つ墓村」のモデルとなった"津山事件"や、こちらも映画化されている"阿部定事件"なんかは有名ですね。『名探偵のはらわた』の中でも、大きく取り上げられていました。


阿部定事件がモチーフ↓


それぞれ実際の事件を調べてみたんですが…気が滅入っちゃうので省略します。

本書は、章ごとに一人の人鬼を探す、という構成になっています。各章のタイトルも、人鬼が起こした事件の名前がついています。

神咒寺事件

亘が勤める探偵事務所は、岡山県で起こったある事件の捜査に協力することになります。

神呪寺という寺で火災が起こり、焼け跡からは地元の青年団6人の遺体が発見されました。

彼らは火災から逃げ遅れたために死んだのだと思われていましたが、遺体の様子に不審な点がありました。

現場は密室でもなく、縛られていたわけでもなかったのに、誰一人として逃げようとした様子がなかったのです。

大火傷を負いながらも唯一生き残った青年に話を聞いたところ、ある恐ろしい事実が発覚するのです。

本書の序章にあたるのが、この事件です。彼らが火災現場から逃げなかったのはなぜか?その理由には心底ゾッとしました。そして、真相解明後に起きるまさかの事態…

八重定事件

数十年前に死んだ殺人鬼たちが、人鬼として現代に蘇ったことを知った亘は、探偵の古城とともに人鬼たちを探し出すことに。

人鬼たちは自身の肉体を持たないため、人間に乗り移り次々と殺人を犯していきます。

そんな中、局部を切断された遺体が続けて見つかり、古城は「八重定事件」の犯人が蘇ったのだと当たりをつけます。

古城と亘はある筋の協力を得て被害者の足取りを辿りますが、八重定が見つかったのは意外な場所で…

当時の事件の真相も明らかになるのですが、やるせない気持ちになってしまいました。

農薬コーラ事件

渋谷のクラブで"チェシャ"という女性に声をかけられた有里子。チェシャは「これから人を殺す」「その様子をyoutubeにアップして」と言い、姿を消します。その直後、フロアにいた複数の客が吐きながら倒れます。

後に、ドリンクの中に毒が混入されていたことが判明します。同じビル内で同様の事件が起こり、クラブ経営者が古城に事件の捜査を依頼します。人鬼として蘇った中に、コーラの中に農薬を混入して飲んだ者を殺した殺人鬼がおり、そいつの仕業だろうと古城は言います。

津ヶ山事件

本書で一番大きく取り上げられているのがこの事件。

オートキャンプ場で、日本刀と猟銃を持った男がテントを次々と襲撃し、20人以上が死亡する事件が起こります。津ヶ山事件の"向井鴇雄"(むかいときお)の人鬼だと確信した古城と亘は、鴇雄が向かったと思われる岡山県木慈谷に向かうことに。

岡山県木慈谷は、生前の向井鴇雄が大量殺人を起こした土地であり、神咒寺事件が起こった場所であり、さらに亘の彼女の故郷でもあります。

木慈谷の郷土歴史博物館には、生前の向井鴇雄が凶行を行ったときに使った日本刀が収容されています。

鴇雄がその刀を奪いにくると分踏んで、亘は郷土歴史博物館に向かいます。しかしそこにはすでに事切れた職員の姿が。

亘と古城は、鴇雄を見つけ出し、大量殺りくを止めることができるのでしょうか。

この最後の事件の緊張感は凄かったです。人鬼は生前の凶行を繰り返す性質があるという設定。早く鴇雄を捕まえないと、さらなる大量殺人が起こってしまいかねない。しかも、外は悪天候。土砂崩れがあり、橋は落ち、木慈谷に閉じ込められる探偵たち。

猟奇殺人事件にはおあつらえ向きすぎるシチュエーションですよね。犯人が誰の体に乗り移っているか分からず、否が応にも緊迫感が高まります。

鴇雄が遺した遺書に隠されていたある事実に亘が気づくのですが、ここは思わず戦慄しました。そして、その事実からあの答えを導き出すという道筋の作り方は見事でした。

『名探偵のはらわた』には続巻もある?

蘇った人鬼は7人、という設定でした。残り4人の殺人鬼が登場していませんし、本書のラストでは、次の事件を予感させる出来事が起こっていました。…となると、これは続巻がありえそうじゃないですか?探偵コンビによる鬼退治奇譚がまだ続きますように!


関連キーワード

-ミステリー/サスペンス小説, 国内ミステリー/サスペンス

Copyright© ミステリープール , 2020 All Rights Reserved.